指導の先生
 
 今回のコンサートで「ブランデンブルク協奏曲」の華麗なソロ、そしてカンタータ147番の通奏低音を担当する水永牧子さんはバロックから現代作品まで、そしてソロ活動から様々な形態のアンサンブルまで、従来の古楽奏者の枠にとどまらない多彩な活動を展開している、チェンバロ界期待の新星です。クラーク博士の「Boys be ambitious!」」(少年よ大志を抱け!)の言葉を世に伝えた、海老名出身の大島正健氏は、水永牧子さんの高祖父にあたります。 

 大島正健氏は、1859年現在の海老名市中新田に生まれ、札幌農学校(現在の北海道大学)第1期生で、クラーク博士の薫陶を直接受けています。クラーク博士は、札幌農学校で指導にあたった期間は僅か、8ヶ月でしたが、先生の教育方針は教え子及びその後進に大きな影響を与え、明治期に日本の発展を創り上げた幾多の人材を生みました。

 クラーク博士と16人の生徒たちとの、別れの言葉が「Boys be ambitious!」でした。この逸話は、教科書にも取り上げられ、日本人に大きな志(こころざし)を持つことの重要性を日本人に伝え、青少年の育成の上で大きな影響を与えましたが、この言葉を世の中に伝えたのが大島正健氏です。

 「Boys be ambitious!」の後には「like this old man」と言っています。本来は「Boys be ambitious like this old man!」でした。 クラーク博士は、当時としては「old man」の53歳でした。老人でありながら、札幌での8ヶ月は覇気に満ちて、永遠の青年の如く理想を抱いて行動したのだから、まして君たち青年はもっとambitiousであれ、と解釈すると迫力があります。「like this old man」は中高年の人達にも、励ましの声に聞こえます。

 
大島正健氏(1859-1938)
 北海道大学のシンボルの一つである、ポプラ並木が、2004年の台風18号の強風を受け51本のうち19本が倒れ無残な姿をさらしました。北大がポプラ並木の再生と倒木の活用に取り組む中、倒木によるチェンバロ作りが提言され、チェンバロが製作されました。そのお披露目コンサートでチェンバロの演奏をしたのが、何と言う縁でしょうか水永牧子さんでした。なお、当日はクラーク博士の子孫で、北大に留学していたベンジャミン・サリバンさんも演奏を聴いています。これも歴史の縁の深さを感じます。その後、水永牧子さんは 北大チェンバロアカデミー講師として定期的に招かれています。

 今回のコンサートは水永牧子さんにとって、父祖の地である海老名における、初めての演奏会にあたります。このコンサートを聴くことで、海老名出身の教育者、宗教家である大島正健氏、クラーク博士の、「Boysbe ambitious like this old man」を思いおこし、生きるうえでの元気、勇気を得ていただければ歓びです。また、水永牧子さんを招いた理由もそこにあります。なお、本年2009年は奇しくも大島正健氏の生誕150年にあたります。     
                                                                   

北海道大学 ポプラ並木